有紀寧の六篇───






ジャンルCLANNAD 宮沢有紀寧SSアンソロジー
サイズ新書
表紙フルカラーカバーPP加工
ページ数104P
配布価格600円(ショップ価格750円)
配布方法
関東 3月21日24耐コミケットスペシャル4
 第二部 J-41a「他人の代表」
関西 3月27日ミラクルレインボー3
他人の代表 通信販売
配布開始日2005年3月21日
執筆者
陽だまりに立ち上る湯気もりたとおる
道草の味みのりふ
S.R.S.春日姫宮
貴方と雪を降らせたい春日姫宮
How About Sweet Sweet Coffee?道化童子
それは楽天道化童子
表紙イラストえいな
挿絵バイシュエ
編集道化童子
企画他人の代表
委託情報
メロンブックス
委託終了
コミックとらのあな
委託終了
【田尾】「最終試合には……」
【田尾】「近鉄ファンがたくさん訪れました」
【田尾】「色とりどりの格好で……柄も悪くて……」
【田尾】「それでも…選手の前でだけは……真剣な目をしてました」
【田尾】「泣いてる人もいました……」
【田尾】「彼らは、本当に選手と深い信頼で結ばれた仲間だったんです」
【田尾】「だから、わたしは…」
【田尾】「勇気を持って、声をかけました」
【田尾】「楽天の監督です、って…」
【田尾】「少しだけ話をしました…」
【田尾】「そして、わたしは彼らが失ったものの大きさを、知りました……」
(「それは楽天」本文より)


 春原曰く、彼女は五年前の木村佳乃に似ているらしい。最近の佳乃は薹が立ってきているが。だが、送られてきた写真を見ると、その女性はむしろピーコに似ていた。
「ヘタレ男、がんばれっ」
 思わず有紀寧でさえもそう応援してしまいたくなる、そんな大恋愛であった。
 まだデートさえしていない彼女に路地裏から突撃して、押し倒そうとした春原を、すんでのところで止めたこともあった。
 御両親に会いに行くと気色ばんだ春原を、せめて一緒に食事ができるようになってからにしろ、と説得した時もあった。
 キスの仕方が分からないから、有紀寧を貸してくれと言った彼を、無言で警察に突き出したこともあった。
(「貴方と雪を降らせたい」本文より)


 後から思えば、そのつもりでいても、わたしは危なっかしくふらついていたのだろう。
「あぶねぇ!」
「え?」
 急に強い力で引っ張られたわたしは、なすすべもなくアスファルトに叩きつけられた。衝撃に目の前が暗くなり、吐き出そうとした息がまた肺に押し戻される。苦しさで遠くなった耳にかすかに聞こえるクラクション。そして排気ガスを吹き付けて車が遠ざかっていく。
 それらの出来事がようやくひとつにまとまって、ここで初めて自分が轢かれそうになったのだと分かった。
「大丈夫か?」
 不意に上から声をかけられる。わたしは反射的に顔を上げた。一瞬視界がぶれて、めまいに似た感覚が起こる。
(「道草の味」本文より)


 椋さんの言いたいことは想像がつく。わざわざ朋也さんから離れたぐらいだもの。間違いなく朋也さんのこと。
 けれど、さすがにここまで踏み込んじゃっていいんだろうか。
 やっぱり促すように聞くのは止めておこう。ここから先は椋さん次第。
 手を差し伸べるだけじゃ駄目だって、お兄さんは言ってたし。
 椋さんがぐっと身体に力を入れた。固く目を閉じ、そのまま

「力を貸していただけませんかっ!」

 …………………………きーん
 今までの椋さんの喋りの音量をを全て足したような大きな声が、女子トイレに響き渡った。
 というか、外にも確実に漏れたと思う。
 椋さんは顔を紅潮させて、少し涙目になってわたしを見つめていた。まだ手が少し震えている。
 わたしはというと、まだ耳がきんきんしてしまっていて、何も答えられずにいた。
 軽く首を振って、耳の違和感を追い払う。そして軽く呼吸を整える。
「全部とは言いませんが、少し説明していただけませんか?内容を把握しなければお手伝いも出来ませんから」
(「陽だまりに立ち上る湯気」本文より)


「で、あんた達、どこまで行ったわけ?」
 くるっと振り返って、いきなりな質問。わわわ、お姉ちゃん危ないよ、という妹の声も、大丈夫よ、の一言で一蹴。
妹の方もやはり興味があったのか、期待に満ちた眼差しを有紀寧に向ける。
「ちょっと待った。お前ら、何て質問を――」
 まばらな蝉時雨が降る中、濡れて光る路面の上で自転車が揺れた。
「ま、まだ、藤林先輩たちが想像しているようなところまでは――」
「ふぅん、あたしの想像が分かるの」
「上と下を入れ替えてしたりとか、避妊用具なしでしたりですか?」
「なっ」>
 今度はスクーターの方が揺れる。有紀寧はほえっと無邪気に小首を傾げると、
「もしかして、何か変なことを言ってしまいましたでしょうか?」
「当たり前だっ」>
 叫んだのは朋也だった。容赦ないスクーターの速度に合わせようと、自転車のペダルを懸命に回して、息を絶え絶えにしながら。
「まだキスまでだろうがっ、しかも俺が半分無理矢理奪ったやつ!」
 言い終わってから気が付いたらしい。朋也は、あっ、と小さく声を漏らした。
(「S.R.S.」本文より)


「ですが風子、あなたの名前を知りません」
 風子の言葉に、有紀寧は自己紹介がうやむやに終わっていたことを思い出す。
「ごめんなさい。わたしは宮沢有紀寧と言います。この学校の二年生です」
「宮沢さんですね。分かりました。アンテナ宮沢さんです」
「出来ればアンテナはなしでお願いします」
 有紀寧は直そうとしても直らない癖毛を押さえつつ言う。
「ですが、そのままでは芸名としては弱いですよ」
「デビューの予定はありませんから、大丈夫です」
「そうですか、では宮沢さん」
 風子は有紀寧に改めて向き直る。
「これ、プレゼントです」
 そして、有紀寧に何かを差し出す。
「これは、お星様ですか?」
「違いますっ! これはヒトデですっ」
 風子が激昂して言う。
「ほえ……ヒトデさんですかぁ」
 その木彫りは、辛うじて五つの頂点が見えるが、ヒトデにはあまり見えなかった。
「まったく。ヒトデを間違えるなんて。宮沢さんはおっちょこちょいですっ。そのアンテナは伊達ですかっ」
「残念ながら、伊達です……」
(「How About Sweet Sweet Coffee?」本文より)


おまじない、しませんか?





元気になるおまじない。





呪文は─────











”ゆきねのね”






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